アリサ
……しかし、珍しいこともあるものですね。 アンナさんが私たちを神殿に呼び出すなんて。
モーティマ
--って、なんだありゃあ!? どぎついピンクの舞台みてぇなのがあるぞ!
???
み……皆さーんっ! 今日はアンナのライブに来てくれて、ありがとうーっ!
ケイティ
なッ--アンナさん!? どうなさったのですか? その……いつになく少女趣味な恰好をされて。
アンナ
い、衣装が少し可愛すぎることは承知しています。 ですが、私は決意したのです! 今日からは『政務官・兼・歌手』として生きていくと!
ソーマ
えぇっ!? お、王子……アンナさんがおかしなってしまいました。
ドルカ
アンナちゃん…… 悩みがあるなら相談してくれていいのよ?
リカルド
魔物に操られている可能性もあるな。 皆、彼女から離れたほうがいい。
ち、違いますっ! 私……ずっと考えていたのです。 どうしたらもっと皆さんや王子のお役に立てるかを。 そして、先日ようやく悟ったのです。 歌手になって皆さんを応援すればいいのだと。 ふふっ、実は私、こう見えて歌は得意なんですよ?
……アンナさん、貴方は疲れているのですよ。
う……ま、負けません! 歌手になるだなんて、反対されるのは判っていたこと。 それでも、私はやると決めたのです! だから、お願いします--私の歌を聴いてくださいッ!
……やれやれ、本当に歌い始めてしまいましたね。
レアン
でも、不思議な感じだ。 アンナの歌を聴いていると、 なんだか胸が熱くなってくる気がする……ん?
あれは--! ゴブリンの騎獣戦車に……グレーターデーモン!? なぜ、こんなところに……?
ユリアン
それだけじゃねえ。 オリハルコンゴーレムに、オーク勇者までいやがる。 クソッ、一体なにがどうなってやがんだよ!
ヴァレリー
どうやら彼女の歌には、味方を鼓舞するだけでなく 魔物を引き寄せる効果もあるらしいね。
エレイン
なんて、呑気に分析してる場合じゃないでしょ! ほら、アンナさん、いい加減に歌うのをやめて--
--さぁ~っ! どんどん盛り上がっていきますよ~っ!
……完全にスイッチ入っちゃってるみたいね。 こうなったら無理矢理にでも--
王子
…………。
……最後まで歌わせてやりたい? 王子ってば、なにバカなこと言ってるのよ!?
いえ、一理あるかもしれません。 無理に止めさせれば、アンナさんの歌に集まってきた 魔物たちが暴動を起こす可能性がありますから。
オーク
--うおおおおおおおおおうう!! アンナッ! アンナッ!!
ゴブリン
アンナ! ファイアー! タイガー! サンダー! ギャーギャー!
……ですが、このままだとアンナさんが 興奮した魔物たちに襲われてしまいそうですね。 王子、ここは皆で彼女をお守りしましょう!
だが、後方で静観している強力な魔物たちは 彼女の歌に深く聴き入っているみたいだ。 ヤツらとは無理に戦う必要はないと思うよ。
はぁっ、はぁっ……。 皆さーん、聴いてくれてありがとうーっ! …………あら? あれだけ大勢来てくださっていた ファンの皆さんは、どちらに?
そ、そんな……。 集まってくださった方々の大半が魔物だったなんて……。 ……結局、私は王子や皆さんに ご迷惑をおかけしただけだったのですね?
アンナさん……。
……わかり、ました。 歌手アンナは、今日限りで……ぐすっ……引退します。
--待った! そう簡単に夢を諦めたものじゃない。
……え? ヴァレリー……さん?
アンナ、君には才能がある。 稀にいるんだ。聴いた者に力を授け、癒やしをもたらす 魔法の歌声を持って生まれる、天に恵まれた人間がね。 もちろん、今のままでは問題もある。 だが、うまく歌声をコントロールすることができれば 魔物を呼び寄せずに済むようになるかもしれない。 まぁ、僕にはこの程度の助言しかできないけどね。 宝の原石を磨くかどうか、それを決めるのは君自身だ。
……ありがとうございます、ヴァレリーさん。 ですが、当分は人前で歌うのは自粛したいと思います。 皆さんにこれ以上の迷惑はかけられませんから。 (……でも、いつの日か本当に 歌声をコントロールできるようになったら……)
…………?
(……ふふっ♪ このきらめくステージでまたお逢いできるように、 安全な場所でこっそり練習しておくとしましょう)