???
……ふぅ。ここが王国ね。 早くあの方々にお会いして助けを求めなくちゃ。 それにしても、この辺りは長閑で気持ちいいわねぇ。 ふわぁ……なんだか眠くなっちゃった。 うとうと、うとうと……。
ゴブリン
…………ニンゲン?
――きゃっ! ご、ごめんなさい。わざとぶつかったんじゃないの。 景色を見ながら歩いてたら、つい眠くなって―― ――って、きゃあぁあッ!! ま、魔物――ッ!!
ギャギャッ! ニンゲン、ヤッツケル!
アンナ
あれは――! 王子、魔物に人が襲われています! すぐに救護いたしましょう!
……あ、ありがとうございます。
ベルナール
なに、礼には及ばん。 困っている者を助けるのは当然のことだ。
まぁ……なんとお優しい方なのでしょう! それに、そのどことなく気品溢れる出で立ち。 ひょっとして、貴方が噂の王子さまですか?
おぉ……この武具の美しさがわかるとは! 実にお目が高い! お嬢さん、お名前はなんと――
ケイティ
ベルナールさん、話をややこしくしないでください。 ……そちらの方、王子はこちらですよ。
あら~、そうなんですか~。
王子
…………。
――って、それどころではありません! 王子さま、私は貴方にお願いがあって来たのです。 お願いします、 どうか魔物に襲われた村をお救いください。 私一人の力では、もう……。
村が魔物に? そのお話、ぜひ詳しく伺わせてください。
ふわぁ……あ、すみません。 とても居心地の良いお部屋だったので、 つい眠くなってしまいまして……。 ええと、まずは……。 先ほどは魔物たちからお救いいただき、 ありがとうございました。
プシュケ
私、プシュケと申します。 平和な世界を実現するために少しでも役立ちたくて、 普段は魔法の力で人助けをしながら旅をしています。 ……強そうには見えない? む……それは心外です。 これでも私、治癒術と攻撃魔法を両方使えるんですよ? 詳しいことはよくわかりませんが、 私の使う魔法は、闇の司祭と呼ばれる人々の魔法と 同じ種類のものなのだそうです。 なぜ使えるかって? もちろん、修行したからです。 といっても、私の場合はちょっと特殊な方法で 独学で力を身につけたのですが……。 ……なんて話は置いときまして。 先ほども申し上げた通り、先日とある地域一帯が 魔物の大軍による襲撃を受けているのを見たのです。 いくつかの村を襲っている魔物の群れは、残念ながら 私一人の力で対処できるような規模ではなくて……。 住人の皆さんも、なんとか粘っているようですが。 このままですと、村の住人の方々が 魔物の被害に遭うのは時間の問題です……。 そこで、とてもお強いと評判の王子さまたちに その魔物の群れの退治をお願いしに参ったのです。 私もできる限りの協力はいたします。 王子さま……どうか私と一緒に 人々を魔物から救っていただけないでしょうか?
ギャッギャ! ニンゲン、タオス! 今度コソ!
あぁっ! も、もうあんなところまで魔物たちが……!
アリサ
だ、大丈夫ですか? なんだかお顔の色があまり良くないみたいですよ?
フィリス
下がっているといい、お嬢さん。 ここは私たちがなんとかする。
まぁ、なんて頼もしいお言葉! それではお言葉に甘えて、 少し休ませていただいてもよろしいでしょうか?
はい。 見たところお疲れのようですし、ここまで ご案内いただけただけでもありがたいですから。
皆さん……ありがとうございます。 お礼にあとで飴をあげますね。
いえいえ、お気になさらず。 ……それでは王子、ご指示をお願いいたします!
……おや? プシュケさん、どうなさったのですか? ご休憩なさっていたはずでは?
だ、大丈夫ですか? なんだかとても眠そうですよ? もし眠いのでしたら、毛布を――
……うふふ、使えない魔物たちねぇ。 王子たちをロクに傷つけることもできないなんて。
……プシュケさん?
モーティマ
うぉッ……な、なんだ!? なんか急に力が抜けてく感じがしねーか?
シャロン
この感じはまさか――魔界の瘴気!? でも、どうして地上に……。
未編集
バシラ
ひゃッ!? い、いきなり攻撃してくるなんて! 王子、プシュケさんの様子が変です! 瘴気らしきものの発生と関係があるのでしょうか?
とにかく、まずは彼女を止めましょう。 彼女が正気に戻れば瘴気も消えるかもしれません。
……ふぅ、終わったか。 でも、本当にプシュケさんが 気を失った途端に瘴気も消えるなんてな。
う、うーん……。
ソーマ
あ、プシュケさんが目を覚ますみたいですよ!
……あら? 私は一体、なにを……。
それはこちらの台詞です。 プシュケさん、なぜ急に 私たちを攻撃してきたのですか?
え? 私が王子さまたちを……攻撃?
……覚えていらっしゃらないのですか?
え、ええ……眠ってから後のことは。 ポカポカと気持ちのいい陽気だったので、 先ほどはつい、立ったままウトウトしてしまって……。 ……あの、ひょっとして私、寝ている間に 皆さんにご迷惑をおかけしてしまったのでしょうか? 実は、昔から寝相が悪いとよく両親に怒られて……。
……い、いえ。大したことではありません。 酷い怪我をされた方もいなかったようですし、 ひとまず次の村にご案内いただけますか?
は、はい。それでは、出発いたしましょう。
お、おい、プシュケ。 ここって……は、墓場じゃないか……。
………………はっ! す、すみません。ついウトウトしてしまって……。 って……あら? おかしいわ。道を間違えてしまったのかしら?
おいおい、しっかりしてくれよ。 いくら姉ちゃんがベッピンだからって、 墓場で一緒に散歩するような趣味はねーぜ?
あら~、美人だなんて。 そんな……照れますわ♪
プシュケさん、後ろを!
え? 後ろ……って、きゃああッ!? お、お墓から……ガイコツが!
フーリ
アンデッド……でしたら私の出番ですね! プシュケさん、お下がりください!
ニコラウス
――ぬおッ!? き、急に全身が重く……! くっ……ワシの筋肉も歳ですかのぉ。
いえ、どうやらまた魔界の瘴気が発生したようです。 とすると、ひょっとしてプシュケさんは――
………………うふふ。 皆さん、せっかく墓場まで来たんですから、 ちょっと試しに死んでみませんか?
へっ、悪ィがゴメンだぜ! 姉ちゃんが一緒の墓に入ってくれるってんなら 考えてみねえでもねえけどな。
あら~、でしたらいい考えがありますわ。 寂しくならないように、私が皆さん全員を 同じお墓にお入れするというのはどうでしょう?
……やはりまたおかしくなっているようですね。 王子、ひとまずプシュケさんを止めましょう! 事情を聞くのはその後です。
……うぅ……ん……っ。 …………あら? 皆さん、なぜ私の周りに?
……プシュケさん、ちょっとお話があります。
ええと……私、また寝ているうちに なにかご迷惑をおかけしてしまったのでしょうか?
……また覚えていないと仰るのですか? 貴方に襲われるのは、これで二度目ですよ?
も……申し訳ありません。 ですが、本当になにも覚えていないんです……。
うぅ……いたた。
大丈夫ですか、ソーマさん? 膝のところ、ちょっと血がにじんじゃってますよ?
えっ!? お、お怪我をなさったのですか!? 大変! 待っててください、すぐに治癒術を…… ……あ、あら? うまく使えない……?
あ、ええと……ありがとうございます。 でも、ご心配いただかなくても大丈夫ですよ。 転んで膝を擦りむいただけですし。
で、ですが……。
(この心配ぶり、とても演技には見えませんね……) ……アリサさん、ソーマさんの治療をお願いします。 それが終わり次第、出発いたしましょう。
……王子殿、気をつけたほうが良いですぞ? あの娘の中には、おそらく彼女の意識とは別の 邪なる存在が潜んでおる……。 彼女と同じような状態に陥った者を 若い頃に何度か見たことがありましてな。 ま、いわゆる悪魔付きとでも申しましょうか。 ……もっとも、あの娘の中に潜んでおるのは 並の悪魔よりも余程たちの悪い者のように思える。 こりゃ思いのほか大ごとになるやもしれませんぞ?
教団員
おぉ、本当に魔神サブノック様が 少女の肉体を依り代に自ら顕現なさるとは! 夢で授かった啓示の通りだ。 ということは、同じく啓示のあった 我らに仇なす者どもというのは……。
ええ、もうすぐここに来るわ。 だから根絶やしになさい。夢で啓示した通りにね。
――王子、あれを! プシュケさんが囲まれています!
ユリアン
ヤツらは……魔神を信仰する教団どもか。
ふはははは! サブノック様の術中にまんまと陥ったな! 仮初の器とはいえ、肉体を得て顕現した 魔神サブノック様の真の御力の前にひれ伏すがいい!
ぐ、うおぉッ……なんつー瘴気だ! つっ立ってるだけでも足腰に来るぜ……ッ!
よし、サブノック様を護衛しつつ 魔物どもを喚び出してヤツらを叩くぞ! 我らの信仰心の深さをお示しするのだ!
くっ……プシュケさん、 もとい、彼女に取り付いた魔神サブノックを 早めになんとかしないと厳しいですね……。
一刻も早く、プシュケさんを 魔神の支配から解放しなくては! 王子、慎重なご采配をお願いします!
くっ……支配を保っていられませんか。 でも、この肉体の主が『私』の力を欲している限り 『私』を完全に分離することは不可能……ふふふ。
……お目覚めになりましたか、プシュケさん?
……はっ! こ、ここは……? …………そう、ですか……。 また私は……皆さんを傷つけてしまったのですね?
あんたにはサブノックって魔神が取り付いてた。 そいつがやったことだ。あんたのせいじゃないさ。
魔神……ですか。 私に啓示を与え、戦う力を授けてくださった御方は、 神様ではなく、魔神だったのですね……。
力を求めていたプシュケさんは、 恰好の取り付く対象だったのでしょうな。
……ですが、私が力を求めたせいで このように人々が傷つくことになるのなら……。 そんな力なんて……もう要りません! 魔神サブノック、私の中から出ていって! ……いいえ、出ていきなさい! いますぐ……ッ!!
――おおおッ! なんという奇跡! サブノックの気配が完全に消えましたぞ!!
だ――大丈夫ですか、プシュケさんっ!?
はぁ、はぁ……わ、私は大丈夫――って、 大変っ! 貴方こそ怪我をしていますよ! 待っててくださいね、すぐに治してあげますから。
……わぁ、ありがとうございます♪ おかげで痛いのが飛んでっちゃいました!
……って、あら? 治癒術が……使えてる! 私、闇の司祭としての力がまだ使えるみたいですっ!
魔神から教わったといっても、習得したのは プシュケさん自身だからでしょうか? よかったですね。
はい……皆さんが魔神に意識を奪われた私を 正気に戻してくださったおかげです。 本当に……本当にありがとうございます。 ……って、大変! まだ救っていない村があるのを思い出しましたわ。 ここからそんなに離れてはいないはずだけれど……。
でしたら、急いでその村に参りましょう。 プシュケさん、道案内をお願いできますか?
ええ、お任せください。 魔神が去ったいま、私はもう迷いはしませんわ。
くっ……こんなところに連れてきて、 私をどうするおつもりですか?
ふふ、知れたことだ。 貴様の肉体を依り代に魔神を降臨させるのさ。 魔神サブノック様自身に選ばれたほどの器である 貴様の肉体を依り代にすれば、 魔神復活の儀式の成功率は間違いなく高まるはず。
そんな……嫌ですっ! また魔神に取り付かれるなんて……!
ははは。なにを言う? 魔神をその身に宿すのだ。これほどの名誉はあるまい?
い、嫌……イヤぁああぁあぁッ!!!
――そこまでです! いますぐさらったプシュケさんを解放しなさい!
チッ、もう嗅ぎつけてきたか。 だが、我らの目的に必要な この女を返すわけにはいかん。 魔神そのものを顕現させる時間はないが、 かわりに魔神の眷属たちを召喚して相手してやる!
くっ……来ます! 王子、なんとしても敵を撃退し、 彼らからプシュケさんを奪還しましょう!
ぐっ……このままでは全滅だ。 依り代を失うのは痛手だが、撤退するしかあるまい。
プシュケさん、大丈夫ですか?
え、ええ。大丈夫です……。 すみません、またご迷惑をおかけしてしまって。
しっかし、なんでまた教団のヤツらに 簡単にさらわれたりしたんだよ? 姉ちゃん、戦える力があるんだろ?
はい……お恥ずかしい限りなのですが、 お散歩をしていたら、つい眠くなってしまいまして。 その時を彼らに狙われたみたいです……。
……え? 一緒に王国で暮らさないか、ですか? え、ええと……お気持ちはとても嬉しいのですが、 王子さまのようなやんごとなき御方のプロポーズを 私の一存でお受けするわけには……。
……プシュケさん。王子は貴方がまた 邪神を崇める教団に捕まってしまわないように 王国に身を寄せてはどうかと提案しているのです。 失礼ですが、貴方にはその……少々うかつな ところがおありのようにお見受けしますので。
まあ、プロポーズではなかったのですか? それは残念……ですが、確かにいまのままでは また教団の人たちに捕まってしまうかもしれませんね。 ……わかりました。 では、今後はお世話になる代わりに、私の力を 王子さまたちの戦いにぜひ役立たせてください。
はい、是非ともお力をお貸しください。
ありがとうございます……。 この身に宿るのは闇の力……ですが王子さまたちと 一緒なら、この力で希望の光を灯せると信じていますわ。
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