デシウス
ええい、らちが明かん! 王子たちはまだ来ないのか!
アンナ
あれは――デシウス!? 王子、デシウスが女神の神殿を守って 魔物と戦っています!
遅いッ! なにをしていたのだ、王子!
わ、私たちは遠征から帰ってきたばかりで……。 貴方こそ、なぜ神殿を守って――
話は後だ! さっさと加勢しろ! 魔物どもから神殿を守りたければな!
わかりました。 王子、詳しい事情は不明ですが、 ここはデシウスに加勢しましょう!
……ふぅ。危ないところでした。 しかし、なぜ神殿を守ってくださっていたのですか?
フン、行きかけの駄賃というやつだ。 今回は貴様らに頼みがあって来たのでな。
ケイティ
私たちに頼み……? いままで私たちに敵対してきた貴方が、 いまさらなにを言うのですか?
まあ聞け。我輩はついに あのケラウノスを倒す方法を突き止めたのだ。
え……ケラウノス様を、倒す……?
まさか……人間を滅ぼそうとしているとはいえ、 ケラウノス様は神の一柱なのですよ? 現にあの御方は、何度追い詰めてもその都度……。
その神を殺す方法を見つけたと言っているのだ。
…………!
だが、それを実行するには……、 王子、貴様の軍に協力してもらう必要がある。 我輩一人の手には負えん案件なのでな……。 そういうわけだ。王子、協力しろ。 我輩だって貴様と共闘など不本意だが、 あのケラウノスを葬れるのだ。悪い話ではあるまい? ……なに? 詳細を聞いてからでないと決められんだと? 貴様……この我輩が頼んでいるのだぞ!
ひ、ひとまずここではなく、 もっと落ち着ける場所で話を伺いましょう。
……王子。 先ほどの会談でのデシウスの話、どう思われますか? 『聖槍グングニル』――。 はるか昔に何者かが創造し、 人類に授けたとされる神殺しの聖具……。 神は絶対の存在であり、封じることはできても 存在そのものを滅ぼすことはできないはず……ですが、 それを使えば神の存在を根本から抹消することが可能とか。 某所に封印された『聖槍グングニル』を用いれば 数多の国を滅ぼした女神ケラウノス様を完全に葬れる ――そうデシウスは熱弁していました。 その話が本当なら、確かに彼と協力して 『聖槍グングニル』の封印を解く価値はあります。 神を滅ぼす唯一の方法が その聖槍を使うことだとすれば、 ケラウノス様から物質界を守る方法は他にないですから。 ……ですが、デシウスは今まで 強大な力を得るために様々な悪逆を働いてきました。 そんな彼の話を信用してもいいものでしょうか? …………そうですね。 それしか手段がないのなら、乗るしかありません。 わかりました。では今回は彼に協力いたしましょう。 『聖槍グングニル』は砂漠の国に存在する ピラミッドの一つに眠っているそうです。 まずはそちらに向かいましょう。 ……此度の遠征、一筋縄ではいかなそうですね。 我が国と協定を結ぶ各国、各地域の方々には 私から協力を要請しておきます。
……間違いない。 あれが『聖槍グングニル』が 眠っているとされるピラミッドだ。
ご案内ありがとうございます……と 言ったほうがよろしいのでしょうね。
フン。あくまで目的のために一時的に手を組むだけだ。 礼などいらん。
バシラ
もう、素直じゃないんですから……って、あれは?
天使
……人間を発見。浄化します。 全て、主の仰せのままに……。
砂漠兵士
はぁ、はぁ……くそっ、天使どもめ! 聖地を踏みにじっただけじゃ飽き足らず、 俺たちの命まで奪おうってのか!
――あぁっ、大変ですっ! ピラミッドから出てきた天使たちが人を襲おうとしてます!
な、なぜ天使たちがピラミッドから出てくるのだ!?
とにかくあの人たちを助けましょう! 王子、ご指示をお願いします。
天使たちの撤退を確認。 ……デシウスさん、大丈夫ですか?
……あれだけ大勢の天使たちが ピラミッドから出てきたということは……。 まさか……中にはすでに奴らが……。
???
――はぁっ、はぁっ……よかった、無事でしたか。
おぉ、ネフティ様! よくぞご無事で! 我々はこの方々に救っていただいたのです。
当然のことをしたまでです。 ……あら? 貴女は確か……。
ネフティ
――ッ! 貴方がたは、以前バステト様の復活を邪魔した―― ……いえ、いまはそれどころではありません。 聖地であるピラミッドが破壊されてしまう前に、 侵攻してきた天使たちを撃退しなければ……。
ピラミッドを破壊するだと!? くっ……天使どもめ、聖槍ごと砂漠に埋めるつもりか! 王子、まずいことになったぞ。 どうやら我々は天使に先回りされてしまったようだ。 おそらくケラウノスに勘付かれたのだろう。
……天使たちにピラミッドを破壊される前に 聖槍グングニルの眠る場所までたどり着けなければ、 ケラウノス様を永久に倒せなくなる、ということですか。
モーティマ
はン、それがどうしたってんだ? ピラミッドの中にいる天使どもを 片っ端からブッ倒して進めばいいだけの話だろ?
――お待ちください! 聖槍グングニルの在り処を知っているのですか? 闇雲に進めば、ミイラ取りがミイラになりますよ?
ですが、早くしないと天使たちに――
私はネフティ。貴方たちが探している聖槍の守護者です。 私が道案内をする代わりに、貴方たちは天使を倒す。 ――そういう契約でいかがでしょうか?
……わかりました。 王子、ここは彼女に案内を頼みましょう。 ネフティさん、よろしくお願いいたします。
聖槍グングニルの眠る場所はこの先です。 暗いので足下にお気をつけください。
(くっ、この女に案内されては我輩の立場が……) (だが、率直に言えば案内者がいて助かるのも事実。 内部の道までは情報提供者も知らなかったからな)
――むっ、あれは……!
愚かな人間たちよ……。 神のご意志に逆らう者は、粛清します。
ソーマ
わわっ……天使さんたちが 奥の方から大勢出てきました。 一体何人いるんでしょう?
……天使だけではありません。 開いた状態の棺には魔物も潜んでいます。 空中ばかりに気を取られては、足元をすくわれますよ。
……我らの役目はこれまでです。 あとのことは先へ行った者たちに任せましょう。
ユリアン
……ずいぶん足止めを喰らっちまったな。 だが、これで天使どもがピラミッドを破壊すんのを かなり遅らせられたんじゃねえか?
そう願います……が、 天使たちの言っていたことが気になりますね……。 先へ行った者たち、とはどういうことでしょうか? 天使たちの目的はピラミッドの破壊ではないのですか?
違うな。天使たちの目的は聖槍を使えなくすることだ。 おそらく主であるケラウノスに そう命じられているのだろう。 だが、聖槍グングニルはそう容易く持ち運んだり 壊したりできるようなシロモノではないらしい。 それに奴らも聖槍の詳しい在り処までは知らんはずだ。
……だからピラミッド全体を破壊することによって、 聖槍もろとも砂の中に埋めようとした、ということですか。
だろうな。だが、もしも天使どもが 我輩たちよりも先に聖槍の在り処に辿り着いたとすれば、 その部屋を破壊する事で、奴らは目的を達することになる。
――こうしてはいられません! 聖槍を守らなくては!
ね、ネフティさん……あの、足下に……。
え、足下? ――って……きゃああぁッ!? ね、ネズミ嫌ぁあ~~~~っ!!
フハハハハ! そんな猫のような恰好をしているくせに ネズミごときを怖がるとはな!
……デシウスさん。 案内役の座を奪われたからといって ネフティさんに対抗意識を燃やさないでください。
ば……馬鹿を言うな! 下らんことを言っていると天使どもに先を越されるぞ! ……おい女、腰を抜かしてないでさっさと案内をしろ!
……これが神殺しの聖槍、グングニルですか。 忌々しい……可能ならば破壊したいところですが、 この大きさと材質では難しそうですね。 ここは予定通り、この部屋を破壊して埋めるしか……。 ……おや、あれは……?
あれは……ゴーレム。 聖槍グングニルの守護者というわけですか。 ……くだらない浅知恵を。
……そ、そんな……。 天使たちがもう聖槍の座に……。
おいおいおいおい! それどころじゃねえだろ! なんなんだよ、あのデカブツは!?
バルバストラフ
ほぅ……オリハルコンゴーレムか。 こんなところで見かけることになるとはのぅ。
おりはる、こむ……? 言い伝えでは、聖槍が危機に晒された際に 不滅の怪物が目を醒ますと聞いていましたが……。
サイラス
うむ。倒せるなどとは思わぬべきだな。 奴は攻撃されると反撃してくるが、 刺激しなければ向こうから襲ってくることはない。
無論、無闇に刺激しない方が賢明というものじゃ。 奴の一撃は山をも砕くというからのぅ。
……この状況では部屋を破壊して 聖槍を埋めるのは難しそうですね。 ここは方針を変え、人間たちの殲滅を優先しましょう。 彼らにゴーレムを刺激させ、 自滅させるというのも一興です。
兵士
――天使たち、向かってきます!
王子……ここはなんとしても 天使たちを退け、聖槍を守り抜きましょう!
ぐっ……ば、馬鹿な……。 主よ、お許し下さい……。
すごい……本当に天使たちを撃退するなんて。 これが王子たちの実力ですか。
王子、聖槍の座に向かうがいい。 我輩はケラウノスを葬れればそれでいいのだ。 聖槍は貴様に使わせてやる。
王子
…………。
……なに、我輩が使うべきだと? ……フッ、そうかもしれんな。 神殺しの汚名を受けるのは、 暗黒騎士となった我輩こそが相応しい……。
王子……本当によろしいのですか?
心配すんなって。 闇に染まったとはいえ、ヤツも騎士だ。 ここで裏切るような真似は死んでもしねえさ。
ついに……ついに辿り着いたぞ。 聖槍グングニル……これさえあれば我が宿敵、 ケラウノスを完全に葬り去ることができるのだ! 聞け! そして記憶しろ! 我が名はデシウス! 女神ケラウノスを屠る者なり!
ゴブリン博士
アーアー……コホン。 諸君、聞こえてイルカ?
ゴブリン
ギャッギャッ! ハカセ、オーケー!
ウム……デハこれヨリ演説を行ウ。 諸君! 我々魔物の復活カラ早4年が過ぎタ。 しかし、未だに人間どもを駆逐スルには至っていナイ! 特に、王子たちの軍には痛イ目にあわサレてばかりダ! ……だが、悲観スルことハナイ。 我々ゴブリン族はこの1年で 着実に力を付けてきてイル。 隊列ヲ組んでノ戦闘ニモますます習熟シタ。 ワタクシの天才的頭脳の真髄デアル、 飛行くぐつの開発、ならびに実用化にも成功シタ。 本日の演習ハその集大成デアル! クイーン三姉妹様たちも見学ニいらっしゃるそうダ! 故に、必ずや成功させるノダ!
ギャッギャ! エンシュウ、セイコウ! ハカセ、バンザイ!
……報告を聞いて来てみれば。 一体これは何事でしょうか?
グフフ……人間ども、丁度いいところに来タ。 行け、勇敢ナル戦士たちヨ! この一年の成長の証ヲ人間どもの肉体に刻むノダ!
ゴブリンクイーン長女
ふふっ、やってるわねぇ博士。 面白いことになってるじゃない?
く……クイーン三姉妹様! ず、随分早いお出ましデ……。
ゴブリンクイーン次女
へぇ、もう演習も佳境に入っちゃってるようにも 見えるけど? まぁそれはともかく、 あの王子たちの軍に押されちゃってるみたいねぇ?
ウ……そ、ソレは……。
ゴブリンクイーン三女
お姉さま、このままじゃつまらないわ。 ――そうだ。ねぇ、私たちも参加しちゃいましょうよ? こんな時のために、実は騎獣戦車を連れてきてるの。
あらぁ、素敵じゃない! 流石は三女、準備がいいわねぇ。
ナッ……き、危険デス! お考え直しクダサイ!
なら博士が私たちを守ってくれればいいじゃない? 軍の予算をたっぷり注ぎ込んだ飛行くぐつを使ってね。 ウフフ、さぞかし高性能なんでしょうねぇ?
ウグ……し、承知イタシましタ。 我ガ傑作の性能、とくとゴ覧に入れマショウ!
キャリー
うわわわわっ! と、止めてくださいぃ~~~!!
この声は……キャリーさん? ですが、一体どこから……?
エレイン
この水音は……! 来るわ、王子! 海からよ!
もう、なにやってるのよ博士! 私たちを守るってお姉さまに約束したじゃない!
全くよぉ。演習の出来もさんざんだったし。 せめて私たちが逃げるまでの 時間稼ぎくらいはしてくれるんでしょうねぇ?
ハヒッ!? わ……ワタクシを捨て駒になさるト……?
し・て・く・れ・る・ん・で・しょ・う・ね・え?
……に、ニニニ人間ドモ! クイーン三姉妹様に近寄るナ! 近寄レバこの……じ、自爆スイッチを押すのデアル!
自爆スイッチ!? そんな物騒な機能を 飛行くぐつに搭載したというのですか?
ウフフ、気になる? でも試そうとしちゃダメよ? 貴方たち人間は、そんな安っぽいスイッチではなく 私たち自身の手で抹殺してあげるんだから……。
……また逃げられてしまいましたね。 さて、残る一人は…………。
ヒ……ヒヒヒッ! バカめ、騙されたナ! 自爆スイッチなんて嘘なのデアル! このスイッチはなんト――脱出装置なのデアル!
アリサ
と……飛んで行ってしまいました……。 あんなすごい技術を開発してたなんて……びっくりです。
ゴブリン軍も着々と力を付けてきているようです。 我々も気を引き締めていかなくてはなりませんね。
ですが、少しは胸を張ってもいいのではないでしょうか。 私たちも王子のもとで、ゴブリンたちに負けないくらい 力をつけてきているのですから。 王子と共に歩んでいければ、 私たちは今後もさらに成長していけると思います。 これからもよろしくお願いしますね、王子。
……なるほど。 つまりその聖槍グングニルとやらがあれば、 ケラウノスを完全に滅ぼすことができるのだな?
シャディア
あぁ……といってもその聖槍は 直接持って戦うには大きすぎるシロモノらしい。 だが、聖槍に秘められた力を発動させられれば、 神はその強大な力の大部分を失う。そうなれば、 人間程度の力でも互角に戦えるようになるはずだ。 ……もっとも、聖槍の力を発動させるには 神そのものを対象と定めたうえで、 使用者の力を聖槍に十分に注ぎ込む必要があるがな。
倒せるのか……ケラウノスを。 祖国を滅ぼした憎きあの邪神を、我輩の手で……。
……おい、聞いているのか? 聖槍は砂漠の地に存在する ピラミッドのひとつに眠っている。これがその地図――
――王子、あれを! 向こうにいるのはデシウスと……、 魔王親衛隊のシャディア……でしょうか?
あんなところでコソコソと……。 一体なにを企んでいるのでしょう?
(くっ……まずいな。 聖槍の情報をデシウスに流したのがわたしだと 奴らに知られたら、計画が台無しになりかねん) ……おい、デシウス。 ここはわたしが引き受けてやるから、 先ほど話した情報の出所は誰にも言うなよ?
う、うむ。心得た。 では、我輩は先に行かせてもらおう。
……? デシウスが去るようですね。 後を追ったほうが良いでしょうか?
余計な詮索はするな、人間どもよ。 わたしの怒りに触れて死期を早めたくなかったらな。
一戦構えようってのか? いい度胸じゃねえか。王子、受けて立とうぜ!
ふふ……待たせたな、魔界に棲まう者たちよ。 行け! 人間どもの血で大地を朱に染めるのだ!
チッ……あのアマ、魔界の門を開きやがった! 気をつけな! 魔物どもがワンサカ出てきやがるぜ!
(……デシウスは去ったか。そろそろ潮時だな) ……総員、撤退だ! 生き残った者は直ちに帰投せよ!
敵部隊の撤退を確認。 しかし、やけにあっさりと引き上げましたね。
どうする、追撃しとくか?
……いえ。遠征帰りで兵も疲弊していますし、 追撃した私たちを誘い込む敵の罠かもしれません。 深追いはせず、このまま帰還いたしましょう。
それにしても、デシウスとシャディアは 一体なにを話していたのでしょう? 気になりますね……。
(強い……さすがは王子の軍だ。 隠れて覗き見するつもりはなかったが、 つい奴らの戦いに見入ってしまった) (聖槍グングニル……。 ピラミッドに封印された神殺しの聖具が そう簡単に手に入るはずはあるまい) (しかし、宿敵ケラウノスを葬るためには なんとしてもその聖槍を手に入れる必要がある!) (そのためには、いずれあの王子たちと 共闘する必要があるかもしれん。 暗黒騎士団を失った、いまの我輩にはな……)
待ってください皆さん! 本当に大丈夫ですか? こんな悪そうな人に聖槍グングニルを任せて。 聖槍の守護者としては、正直かなり不安です。
見た目で人を判断するな、女よ。 この我輩が聖槍の使い手となった以上、 我が宿敵ケラウノスを討ち滅ぼすのは時間の問題だ。
ケラウノス
――残念ながら、それは不可能です。
ケラウノス様!? い、いつの間に……。
本当におめでたい方々ですね。 聖槍グングニルのもとに辿り着いたくらいで、 私を滅ぼせると思いましたか?
つ、強がりもそこまでだ! 聖槍が本物だということは貴様自身がいま証明した! あとは我輩の力を聖槍に注ぎ込めば…………ッ!! …………ぬうっ……な、なぜだ……? なぜ……神殺しの力が発動しないッ!?
ふふ……聞いたことがありませんか? 依り代となる人間を用意することができれば、 神をこの地上に降臨させることも可能、という話を。
――――ッ!? では、いまのケラウノス様は……。
そう。いまの私は人間の少女の肉体を依り代として 降臨した存在。つまり神そのものではないのです。 よって、神殺しの力の対象とはなりません。 この肉体から私の神としての本質を 分離させでもしない限りはね……。 ですが、物質界の存在である貴方たちにそれは不可能。
そんな……それでは 聖槍グングニルの力をもってしても――
――ケラウノスは倒せない……というのか? ち……ちっくしょおぉおおおッッ!!! 我輩は……我輩は一体、なんのために……ッ!!
アイギス
――諦めてはなりません、人の子よ。
あ、アイギス様――!? ですが、私たちにはもう、どうすることも……。
同じ神の座にある私なら、姉様の精神体を 依り代の肉体から分離させられるかもしれません。 かつて姉様がアダマスの肉体と精神体を分離したように。 ……ですが、私に残された僅かな力で それを実行するには、相応の時間が必要です。 人の子よ、そのための時間を作って頂けますか?
ふん。死に損ないのアイギスに なにができるとも思えませんが……いいでしょう。 その僅かな希望を、目の前で踏みにじってあげます。
人の子よ、準備が整いました。 これより我が姉、女神ケラウノスの精神体を 少女の肉体から分離させることを試みます。
――うっ!? ぐ、うぁあッ……おのれ、アイギス……ッ!!
や…………やったか!?
ふ……ふふ……ははは……あはははははははッ!!
くっ……あと一歩、姉様には届きませんでしたか……。
ふふ。残念でしたね、アイギス。 長きに渡り人間たちを守護するために浪費し、 減衰しきった貴方一人の力など、所詮はこんなもの。
アダマス
――でしたら、二人ではどうですか?
その声は――アダマス!? ば、馬鹿な……どうして貴方がここに?
皇帝
はぁっ、はぁっ……まったく。 王国の政務官は……人使いが荒い……ッ。
あ、貴方は……白の皇帝!? 確かに白の帝国にも協力を要請はしましたが、 まさか……皇帝がお一人でいらっしゃるなんて。
一刻を争う事態だと……アダマスが言うんでな。 集団でなだれ込むより……俺一人のほうが、速い……。 ……だが、さすがに疲れた……。 王子……俺は後方で休ませてもらう、ぞ……。
あぁっ! 体中ひどいお怪我です! いますぐ治療して差し上げないと……。
アイギス姉様、事情は把握しています! いまこそ、私たち二柱の女神の力をひとつに!
ええ、そうしましょう。 一人一人の力は小さくても、それを重ね合わせれば どんなものにも負けない大きな力となる……。 それは、人の子らが教えてくれたこと。 ケラウノス姉様。貴方が愚かだと侮った、 その人間たちの手によって敗れるのです。
や……やめなさい! アイギス……アダマスッ! 自分がなにをしているか、判っているのですかッ!? ……ぐ、ウッ……うアアアァアアァアァッッッ!!!!
……ぐ、ウッ……うアアアァアアァアァッッッ!!!!
やった! 肉体からケラウノスの精神体が分離したぞ!
愚かな……愚かな愚かな愚かな愚かな人間たちめ! こんな……こんな屈辱は初めてです……。 いままで甘く見ていましたが、もう絶対に許しません!
そ、そんな……。 ピラミッドが崩落し始めるなんて……。 なんという凄まじい力の波動なの!?
大天使長
……ケラウノス様、 神獣スフィンクスの起動に成功いたしました。
ご苦労様です。 それでは大天使長よ、 女神ケラウノスの名によって命じます。 スフィンクスと共に、地上の人間を滅ぼしなさい。 一人も逃さず、一切の慈悲もかけず。 焼き払うように徹底的に駆逐するのです。
承知いたしました。 全ては神の御心のままに……。
そ、そんなぁ……。 嘘、ですよね? ケラウノス様……。
なにを案じる必要があるのです? 地上の心配など不要ではありませんか。 貴方がたは全員、ここで惨めに朽ち果てるのですから。 己の無謀を、無能を、無力を呪いながら逝きなさい。 卑小な人間たちが束になったところで、 神の座を脅かすことなど、決してできはしません!
――否! 我輩たちには神殺しの聖槍、 グングニルがあることを忘れたか! 王子! ケラウノスの言うとおり、 神であるヤツを滅ぼすことは不可能だ。 ……聖槍グングニルの力が発動するまではな! そして、聖槍の力を発動させるには、 それを試みる者――つまり我輩の力を 聖槍に十分に注ぎ込む必要がある。 無論、ケラウノスはそれまで待ってはくれんだろう。 だから……頼む! 我輩が聖槍の力を発動させるまで、 なんとかヤツらの攻勢に耐えてくれ! 聖槍の力が発動すれば、ケラウノスは弱体化する。 そうなれば人間の力でも互角に戦えるはずだ。 発動したら我輩が合図を送る。そうしたら――
――ケラウノスを討て、王子! いまの貴様ならできるはずだ!
その思い上がり、後悔させてあげましょう! 行きなさい、天使たちよ! 聖槍の力が発動する前に彼らを殲滅するのです!
ハァッ、ハァッ……くっ、さすがに堪えるな。 だが、残りはあと半分といったところか……。 王子、あと一息だ! なんとしても奴らの攻勢を堪えきってくれ!
――ぐ……うぉおぉおおッ!!! 来た! ついに来た! 反撃の機は満ちた!! 喰らえぇええッ!! ケラウノスゥウウッッ!!!!
ぐッ……が……ぁ……あああぁあああぁあッッ!! 力が、抜けて……うぐぅッ! こ、これが……、 聖槍グングニルの……神殺しの力、ですか……ッ!
いまだ! 王子、ケラウノスを――
討てえぇぇええええぇえええええッッッ!!!!
ぐ、ふッ……そんな、馬鹿な……ッ。 この、私が……取るに足らぬ……人間如きに……。
ケラウノス姉様……。
お……愚かな、人間たちよ……。 この私を討ったこと……必ずや……、 後悔することに、なる……でしょう……。
………………やったのか? ついに……ついにやったのか? 我輩は、ついに祖国の仇を…………っ!
(……邪悪な意志に染まった力では 聖槍の力は発動しなかったはず。 こう見えてデシウスの意志は純粋だったのですね)
…………う、うぅ……ん……。
あ……お、王子! ケラウノス様に依り代とされていた 少女が息を吹き返しましたッ!
なにっ!? まだ生きているだと!?
お、落ち着いてください! この子はもうケラウノス様では――
……フン、わかっているとも。 ケラウノス亡き今、この小娘はただの抜け殻に過ぎん。 ……哀れな犠牲者だ。我輩と同じな。
……ふっ。
フィリス
――うわわわわわッ!? な、なんだこの揺れは? 地震か!?
くっ……皆さん、申し訳ありません! このピラミッドは間もなく崩落します! 脱出を急いでください! さぁ、早くッ!
……お目通り感謝いたします、王子。 貴方にお話しすることで、自分の気持ちや 今後の方針について整理いたしたく思いまして。 まずは、ケラウノスのことです。 人類滅亡の推進者であった かの女神を討滅してくださり、ありがとうございます。 ……いえ、謝らないでください。 確かにピラミッドは崩壊し、聖槍グングニルは がれきの下に埋もれてしまいましたが……。 聖槍は見事にその役目を果たしましたし、 ピラミッドは再建すればよいのですから。 我らが一族の信心は、そう簡単には揺るぎませんよ。 ……とはいえ、今回の事件を通じて 私個人の価値観は大きく変わってしまいました。 以前は我ら一族の崇める神、 バステト様の復活こそが 唯一の救いだと信じていましたが……。 いまは私たち人間が互いに力を合わせて 危機に立ち向かうことが必要なのだと思っています。 信じる神に運命を委ねてしまうのではなく。 ですから王子……微力ではありますが、 今後は私も貴方がたの戦いに お力添えさせて頂けないでしょうか? ……ありがとうございます。 それではこれより、私ネフティは 救世の英雄の守護者として己が武を振るいましょう。
依り代の少女
……貴方が王子様でいらっしゃいますね? 先日は私をケラウノスの支配から救っていただき、 本当にありがとうございました。 それと、この国で保護していただけるよう 取り計らってくださったことも。 本当に、なんとお礼を申したらよいやら……。 ケラウノスの依り代にされていた時のこと、ですか? ……申し訳ありません。思い出そうとはしていますが、 いまのところは当時のことも、それ以前のことも……。 ですが、ひとつだけわかったことがあります。 かの女神の精神体の支配から逃れた今も、 私の肉体は僅かながら奇跡の力を宿しているようです。 といっても、残念ですが 私自身には貴方がたのように戦う力はありません。 ……かわりに、と言っていいかはわかりませんが、 ケラウノスに勝利した英雄である貴方に、 かの女神が有していた神器を授けさせてください。 ケラウノスの武具が必要な際は、 称号を『神殺しの英雄』に変更してください。 詳しいことは私にはわかりかねますが、 神が有していた武具ですので、 おそらく絶大な力を宿しているはずです。 使い方を誤ればかえって不利にもなりかねませんので、 以前の戦い方と状況に応じて使い分けてみてください。 ……ふぅ。 ひとまず私にできるのはこんなところでしょうか。 もっとご協力できればとは思うのですが、 戦う力のない私では、たとえ戦場に出たとしても 足手まといになるだけだと思いますので……。 ……しばらく安静にしていた方がいい? ふふっ、ありがとうございます。 アンナさんたちもそうおっしゃってくださいました。 それでは……お言葉に甘えて、 これからは普通の女の子として 生きていきたいと思います。
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